坊主

ということで、坊主にしてみた。「なんでか」と聞かれると「夏だから」としか答えようがない。

ところで、散髪屋さんのおばさんの仕事の進め方から私は何点かを学んだ。

彼女(年齢不明。何故か奇妙なパーマ。光物好き。散髪の前には不安が走る。)は、私の髪を少しずつ少しずつ短くしていった。初めは、私の髪を半分くらいに切り、更に半分。そして半分。私が依頼をした5ミリという長さになるまでに、全体を短くするという時間と手間の掛かる工程を経て、私は坊主になった。

髪を切っているとき私はこう思っていた。「も~。ザクっとスパッと短くしてくれよ!こっちは坊主でいいって言ってるんだから!」と。しかし、切り終わった後私は、自分の頭をまじまじと眺め、彼女の仕事の進め方に感心をしたのだ。「こりゃ、いきなりこれになったらびっくりするよな。少しづつ、少しづつだったから良かったのだ」と。くせっ毛なのでウエーブなんぞかかっていた髪が、いきなり修行僧のようになったのだから。

髪を切っているとき、私がしきりに「ずばっと」いっちゃってください。とか「ざくっと」いってしまってください。といっていたので、私が進行の遅さにいらいらしていたことを気付いていたに違いない。しかし、私のその瞬間的な意向を汲み取らず、コンセンサスをとりながら仕事を進めてくれた散髪屋のおばさんの仕事の進め方、に私は感心した。リスクヘッジをきちんととらなくては大変な仕事だもんな。坊主にするのって。後で聞いた話によれば、こんなに短くしやがってというクレームを入れる人って結構いるということだ。

こういう仕事をしていたら、中小企業のかみなりおやじのような社長さんにどやされるようなこともなかったのだろうな。「おう!君の好きにやってくれてかまわないよ」と言ったのに、好きにやらせてもらった試しなどなかったものな。そうか、こうやって少しづつ少しづつコンセンサスをとっていけばいいのか、と直球勝負しか出来なかった昔を懐かしんだ。この日、私は坊主頭が似合わないということも学んだ。店を出るときのBGMはサザンオールスターズの「夏をあきらめて」だった。